さて、宿題を片付けに本日もジムにイソイソと通います。
しかし今日は蒸し暑い。
夜になっても、もわぁ~んとした空気が漂います。
外を見ると、9月の夜なのに、上半身裸のオッサンが団扇を持ってウロウロしています。
実は湿気は、クライマー、特にハードな課題が好きなボルダラーには一番の大敵です。 僅かな湿度の増加で、ホールドのフリクションは抜群に悪くなり、体感グレードはガツンと上がります。
そうしたわけで、世界的にもフリークライミングの限界グレードが更新されるのは、多くがその土地の冬や、湿気の少ない時期で、そうした意味で、ボルダリングやフリークライミングのベストシーズンというのは、空気が乾いて雪がまだ無い程度の冬なのです。(ただし寒いため故障はしやすいし、登れないとすごく楽しくない。)
多少の湿気であれば、体が軽すぎるヤツとか、力が強すぎるヤツへの影響は比較的少なめですが、今の私くらいのパワーウェイトレシオの人間には、限界近くの課題では、大きな影響がありまして…
そんなわけで、宿題は前回間違えてとり損ねたホールドを保持したものの、最後の終了点をとれずに終わりましたとさ、つまりあと一手。ほんとのほんとに一手だけ。
がしかし、この世界では、どんなにそこまでを上手くこなそうとも、そいつを完全に「保持」出来ないと、登れたことにはならんのです。
ついでなんで解説しておきますと、クライミングの世界は、伝統的に超極端な実力主義社会です。
とにかく登れさえすれば、少なくとも名誉だけは必ず得ることができます。
もし性格がよければ、その先も何かよいことがあるかもしれません。
顔がよければ、なお完璧です。
しかし一方で、その記録は今でも基本的に自己申告の世界であり、クライマーのコミュニティーは、すべてお互いの信用を土台に成り立っています。
それを逆に言うと、信頼を裏切りズルをした者に待っている制裁は、大変厳しいもので、誰が言いだすわけでもなく世界中へと広がる「永久追放」です。
別に手配書が回るわけではありませんが、ズルをしたと言うことが知れれば、その人はどこの国のクライマーからも相手にされなくなるので、そうしたことがあると、表舞台から自然と消えていきます。 非常に稀ですが過去のケースから考えると、挽回の機会はまずありません。だから実質的に永久追放なのです。
ルールがしっかりと規定されている競技クライミングとは違いますが、競技以外のクライミングにも、世界中に広がるクライマーコミュニティーが長年守ってきた、最低限ですが厳しいルールがあります。
しかしそれは、クライミングとクライマーの自由と進歩のために、あえて規定として明文化はされていないのです。我々がメディアで解説をするようなときも、それはそうした事実と歴史を踏まえた個人の論文に近いものです。
こうしたシステムは、細かい規定を決めてしまうことで、それがクライマーとクライミングの進歩や発展における、足枷となってしまわないようにと考えた、先人の知恵だと思っています。
このシステムだからこそ、新しいスタイルを提起する者が現れ、それは実践され、議論され、定着していくことで、クライミング文化は常に進歩し続けられるのです。
そしてもうひとつ、このシステムの背景には、おそらく先人たちのこうした思いがあります。
「俺らは君と君の判断を信用してるよ。」
そりゃあ、世界中のクライマーからの、これほどの信頼を裏切ったら、後が怖いのは当たり前ですよね?
まあ、極東の人工壁の世間ではどうでもいいレベルの課題で、何かズルをしたところで、そうしたことは無いだろうと思いますが、岩の世界に足を突っ込んじゃった人は、ここはそういう世界でもあると言うことを、頭の隅に置いて、お互いに楽しみましょうね。